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「あんたはわざと俺の嫌いな乗り物ばかり選んでるだろ」

 四つ目のアトラクションを終えた時、げんなりとした顔で緒野さんが言った。
 今まで乗ったものは四つが四つ絶叫系。
 面白半分で聞いてみる事にした。

「ひょっとして、絶叫は苦手なんですか?」
「苦手……でもない」

 変なところで負けず嫌いなんだ、この人は。

「次はあれにしましょう。急流滑り」
「ちょっとタンマ」
「どうしたんですか?」
「あんた人の話聞いてた?」
「絶叫は苦手じゃないって聞きましたけど」
「だからって誰も得意なんて言ってないだろ」

 ついつい私が吹き出すと、あからさまに緒野さんは不愉快な顔をした。
 それでも文句を言いつつ急流滑りに向かっている。
 そこらへんが、この人の性格を現しているのではないだろうか。
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[1/14 ○×遊園地前。以上。]


「遅い」

遊園地に着くと、青年は眠そうな顔で私を迎えてくれた。

「急に呼び出しておいてそれはないです。緒野さん」

昨日の夜、突然電話が掛かってきたと思ったら一方的に用件だけを言って切った。
何故かよくわからないままに、私の彼氏(偽)になった緒野京介は、どうやら物凄く自己中心的らしい。

「この前下の名前で呼んでって言わなかったっけ」

こういうのは形から、ということでまずは名前同士で呼び合う事になったんだっけ。

「きょ、京介さん……」

若干顔が熱くなるのを感じながら呼んでみると、呼んだ私よりも呼ばれた京介さんの方が照れていた。いったい何がしたいんだろう、この人は。
明日更新します。
「それで、用事って何ですか?」

 アルバイトが終わり、22時を回った頃、コンビニの外で手を擦りながら青年が待っていた。

「何か食う? 中華まんくらいなら奢ってやってもいいけど」
「いいです」
「俺が食いたいから買ってきて」
「な……」

 そう言って青年はやっぱりクシャクシャの千円をワークパンツから出してきた。
 青年はあー寒いと言いながらコートのポケットに手を突っ込む。
 コートも薄手のもので、下に着ているものも大して暖かそうではなく、本当に寒そうだ。

「……ちょっと待っててください」

 私はまたコンビニに入って中華まんを二つ買った。
 深夜の人が「また出勤ですか?」「一人で二つも食べるの?」とおちょくってきたので、とりあえず華麗に無視しておいた。

「はい、買ってきましたけど」
「あんまん」

 私の分と思って買ったあんまんを少々強引に奪っていった。私は残されたピザまんをかじる。

「寒くないですか?」

 つい聞いた。青年はあんまんをかじりながら、

「全然、平気」

 声が微妙に震えているようで全然平気そうじゃない。

「……いや、やっぱちょっと寒い」

 私はため息をつく。何か子供みたいな人だ。

「あの、頼みって……」

 あー、うんと青年はあんまんを食べ終えた。煙草を取り出して火をつけている。
 先日、頼みがあるからと言い残した青年が二日後の今日に来たと思ったら、「早速頼みごとがあるから終わったらちょっと時間作って」と言うので、何かなと思って今に至っている。
 まさかこの冴えない青年が妙な事をしないだろうなと少しは勘繰ってはいるが。

「あんたって彼氏いたことある?」
「……何ですか?」

 一瞬聞き取れなかった。いや、本当は聞き取れてたけど。
 私の19年を思い返してみるが、そんな単語とは縁がなかったので。

「セクハラです」
「まあそうだろうと予想はついてたけど」

 ククッと嫌味に青年が笑う。しかも別に答えていないのに勝手にそういうことにされているのが気に入らない。

「帰りますよ」
「まだ頼み言ってないだろ」
「頼む態度っていうものがあります……」
「俺の態度の何が」

 言いかけて辞めた。自覚はあるんだろうか。

「あんたってさ、今自分が世界で一番つまらないとか思ってるだろ。もしそうじゃないって言うなら、頼みも意味なくなるんだけどな」
「………」

 私は絶句した。確かにこの青年の言っている事は的を射ている。私は自分が心底つまらない人間だと思うようになっていた。ここ数ヶ月で特に。
 別にそんなことを人に言うつもりもなかったけど、なぜか、その青年にはちゃんと答えていた。

「そうかもしれません」
「じゃ、話す」

 やっぱりなという表情で青年が頷いた。

「あ、一応前置きとして言っとくけど、俺は別にあんたのことがどうこうとかそういうんじゃなくてつまり別にそういう感情はなしでただ資料としてそういうデータが欲しいからであって本当に絶対に何が何でもそういうことだから勘違いすんなよ」

 いきなり物凄い早口でそう言って青年は私の反応を窺っている。何も意味が分からないので、私はとりあえず了承の意を示した。

「一ヶ月俺の仮の彼女になって」
「……はい!?」

 さらっととんでもない事を言った。

予告

更新予定は明日っ!

お年玉。

 1月3日。
 新年早々バイトに入った私が、いつも以上に暇な時間を過ごしていると、青年がやって来た。

「おめでとうございます」
「ああ、おめでとう」

 私から声をかけてみると、青年は若干驚いたような顔をした。
 一緒にシフトに入っている店長は、いつものようにバックルームで寝ている。
 暇だったのでからかってみることにする。

「お年玉はないんですか?」

 サラダを物色していた青年が顔を上げる。

「お年玉って?」

 よく見ると、今日は豆乳も持っている。

「お正月恒例の、あれですよ」
「あー……」

 気の抜けたような声を出し、

「今日って三日だから、もうお年玉は終わってるだろ」

 悪ぶるそぶりもなく言う。私は首をかしげた。
 今日は確か、まだお正月じゃなかったっけ……。

「お正月って三日まではありませんでした?」
「それは俺もよく知らないけど」

 知らないのはあなたくらいのものだと思う、というのは口には出さない。
 今年の私の抱負は、余計なことを言わない事、だ。

「ふーん、まあ……いいや」
「はい?」

 青年はポケットからくしゃくしゃになった一万円札を取り出して私に突き出した。

「お年玉」
「い、いえ、受け取れません……」

 私はそれをつき返す。

「じょ、冗談ですから」

 慌ててそう言うも青年は気にする様子は無い。

「やる。後これ会計して、煙草も」

 さっさと商品を置く。
 とりあえずバーコードを通す。動揺でサラダを落しそうになると、青年はプッと笑った。笑い事じゃない。

「こ、この一万円からとりますよ?」

 ニヤリと青年が笑う。

「へー、奢ってくれるんだ」
「え……なんでそうなるんですか……」
「だってもうそれはあんたの金だろ」
「でも私、受け取ってません」
「変なところで硬いな。高校生大学生あたりなら、暴力働いてまで人の金とろうってやつもいるのに」

 そういうところが面白いんだけど、と青年はポケットに煙草をいれた。

「釣りはあんたのポケットにいれとけよ。俺、人の金とる趣味はないから」
「ちょ、ちょっと…!」

 追いかけようとすると店長がバックから出てきた。私は何とか思いとどまる。

「ま、今度はあんたに頼みごとがあるかもしれないから、その時はまあ適当に宜しく」

 青年は手を上げて去って行った。
 店長がボールペンの跡の残るおでこを私に向けて言った。

「あの人、この三が日ずっと来てたわよ。しかも長時間居座ってたし、物好きな人ね」
「……そうですね」

 苦笑しながら私はポケットに押し込んだお釣りを確認する。
 それは間違いなく、青年からもらったお年玉だった。
 大晦日。

「お一人で年越しですか?」

 いつの間にか、青年と会話するのが日課になっていた。

「あー、今日って大晦日か」

 思い出したように青年が呟く。その口ぶりから、真剣に今日は大晦日だと気付いていなかったらしい。コンビニですら年越しそばが並んでるのに。

「そばなんて食べられれば同じだろ」
「それには私も同感……」

 特別な日、特別なイベント、特別な物。
 最近は特別な物が多すぎて、何が特別なのか分からなくなってくる。

「あんた最近毎日のように入ってるけど大丈夫なのか?」
「何がですか?」
「普通の19歳は折角の休みにバイト漬けになったりしない」
「あ……あなたがそれを言いますか……」
「何でそこで俺」

 青年は手近にあった年越しそばを持ってきた。


 二つ。

「一つやる。不憫だから」
「な……、そんなのいりません。私はこの後、彼氏とデートがありますので」
「彼氏いる奴はそんな魚が死んだような目はしてない」
「はぁ……」

 何となく情けない気持ちで一つを受け取る。
 そこで客が一人入ってきた。
 それが合図のように青年は立ち去る。

「じゃ、よいお年を」

 去り際に青年は言った。

 あれ。

 そういえば何で私が19歳って知ってるんだろう。

一応更新。

水無月ゆみか(A)
19歳
大学生
コンビニアルバイト

670円

「あんた、時給いくら?」

 あれ以来、青年は会計の時にたまに話しかけてくるようになった。
 暇なコンビニなので、私も特に苦痛には感じない。

「670円です」
「うわ、安っ。今時小学生でももうちょっともらってる」
「小学生は働きません」

 こんな感じだ。

 私、こと水無月ゆみかは暇を持て余していた。
 大学生にはなったものの、特に変わり映えの無い日常。高校生の時に思い描いていた理想図なんて欠片も無い。
 何かしてみようと始めたアルバイトも、あまり成果を挙げていない。
 強いて挙げるとすれば、人間観察が好きになっただけだ。

「あれ、また失恋ですか?」

 銘柄が違うものを注文したので、咄嗟に尋ねた。

「ふーん、やっぱりそういうことか」

 青年は納得のいった表情で呟く。

「あんた、よく見てるな。努力次第じゃ将来成功する」

 あんたみたいなガキに見破られるようじゃ俺もまだまだだなと付け加えた。この人は本当に何が言いたいんだろう。

「でも何で俺が失恋した時に煙草の銘柄変えてるって分かった?」
「別に。煙草の銘柄を変える時に限って、物凄く沈んだ顔をしていたり、女々しい仕草をしているからです」
「うわ、俺ってそんな態度に出る?」

 ものすごく、と答えると、青年は黙り込んでさっさと帰ってしまった。
 帰り際に、

「じゃあまたな」

 何気なしに青年は言った。
 今日もあの冴えない青年が私が働くコンビニに来た。
 いつものようにサラダと煙草を注文したが、前回買った煙草とは銘柄が違う。私は何気なく聞いてみた。

「また失恋したんですか?」

 青年は最初何を言われたのか理解をしてたなかったようだが、次第に呆気にとられたような表情になり、

「……は?」

 明らかに動揺していた。
 しまった、と私はさっきの発言を悔いたが時既に遅し。言ってしまったものは仕方が無い。
 きっと、今日が12月24日なのがいけないんだ。

「500円になります」

 なるべく平静に私がそう言うと、青年はぶすっとした顔になって千円札を突き出した。
 私がそれを受け取り、お釣りを返そうとすると、

「やる」

 ぶっきらぼうに言う。

「は、はい?」

 これは新手の嫌がらせだろうか。
 私が困惑していると、商品を持って、

「クリスマスイブなのにバイトなんて、あんたも物好きだね。可哀想だから、だからやる」

 流石に腹が立った。
 一言言い返してやろうと思ったときには青年はもういなかった。


 この日から、私と冴えない青年の交流が始まった。

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